貧しい人のための「イエズス会モデル校」目指す 東ティモール・聖イグナチオ学院訪問記
<筆者:49期(1998年卒) 工藤博司>
上智福岡(泰星)と東ティモールのパートナーシップの歴史は長い。上智福岡は1997年9月、首都ディリにある聖ヨゼフ学園と姉妹校提携を結び、交流を続けてきた。筆者も1988年8月に同窓会から現地に派遣され、授業がインドネシア語で行われていたことを鮮明に記憶している。本稿では、2013年5月の大型連休に15年ぶりに東ティモールを訪れた様子をご報告したい。
1998年当時、東ティモールはインドネシアの施政下にあり、独立を果たしたのは2002年。今では「アジアで最も新しい国」として知られているが、世界最貧国のひとつでもある。
<聖ヨゼフ学園卒業生は「カトリック・エリート」として知られてきた>
1980年代初頭に創立された学園は1993年からイエズス会が約20年にわたって運営を続けており、東ティモールの中等教育としては最高水準を誇ることで知られてきた。政府の要職につく卒業生も多く、「カトリック・エリート」として名をはせた。
だが、ディリ大司教区の意向でイエズス会は2011年限りで学園の運営から撤退。
唯一完成している校舎。まだ窓は設置されていない。>>>
運営を引き継いだディリ教区は、新設する大学の運営に軸足を移すこともあって、2013年には学園自体も廃校になることが決まっている。
このため、イエズス会はディリの西方約18キロにあるリキシャ県カサイ村に「聖イグナチオ・デ・ロヨラ学院」を新たに開校することを決定。聖イグナチオ学院では、これまでの「エリート主義」から「貧しい人のための教育」にかじを切り、東ティモールにおける教育のモデルケースの確立を目指すことになった。
<敷地はヤフオクドームのグラウンド6つ分>
聖イグナチオ学院は2013年1月に開校し、中1にあたる7年生が3クラス・83人(男子49人、女子34人)が在籍している。現時点では13人の教職員が働いている。今後、1学年ずつ12年生まで増えていく予定で、2014年にはオーストラリア・カトリック大学と提携し4年制の教育大学もスタートする計画。
敷地面積は8ヘクタールで、ヤフオクドームのグラウンド面積の約6倍にあたる。総工費は約900万ドル(約9億円)で、多くはオーストラリアからの寄付だが、イエズス会日本管区からも土地取得や校舎建設のために寄付をしている。
工事は全般的に遅れ気味だ。2013年3月までには3棟完成しているはずだったが、筆者が訪問した時点で出来ていたのは1棟だけ。まだ窓もない状態で、風通しが良かった。物資も不足しており、ノートは日本から寄付されたものも支給しているが、教科書は授業ごとに貸し出して回収。机と椅子は六甲学院(神戸市)から寄付されたものを使用している。
<教育熱背景に6割が首都からの通学生>
そんな中でもカリキュラムは特徴的だ。東ティモールの大半の学校は昼食が出せないため、公立学校の多くは正午には授業が終わってしまう。一部の私立学校でも昼食抜きで14時まで行う程度だ。だが、聖イグナチオ学院では弁当持参で7コマ、15時30分まで授業がある。東ティモールの常識を越える勉強量だと言える。授業はインドネシア時代とは違い、公用語のポルトガル語とテトゥン語で行われる。
音楽の授業風景。
聖イグナチオ学院には3クラス・83人が在籍している。>>>
都市部の教育熱は高く、生徒の6割以上が首都ディリから通ってくる。保護者が手配した乗り合いトラックを利用し、片道1時間半かけて通学する生徒もいるという。
学費は年に150ドル(約1万5000円)。学費収入は運営経費の1割に過ぎないが、この額も現地の経済水準からすればハードルが高い。寄付を原資に奨学金制度を設けることも計画されている。
2012年5月に上智福岡から東ティモールに赴任した浦善孝神父(49)は「上智福岡をはじめとする多くの日本のカトリック学校は、戦前戦後の諸外国からの寄付で設立・運営されてきた。日本が豊かになった今、貧しい国の教育に協力してほしい」と呼びかけていた。
首都ディリの市街地。>>>
<関連リンク>
Colégio Santo Inácio de Loiola
聖イグナチオ学院を日本語で説明したページ